スラリとした美人が下着姿で眠っている≪十月二十七日≫ ―壱―大使館へ行った帰りに、シンタグマ広場を通るとなにやら騒がしい。 なにやら人が大勢集まっているようだ。 音楽が聞こえてきたかと思うと、鮮やかに民族衣装を着込んだ若者達が行進 してくるのが見えた。 道路は交通規制が敷かれていて、小学生らしい子供達が、制服を着た まま隊列を整えて準備をしている様子が目に飛び込んできた。 ギリシャ国旗がやたらと振られていて、広場では近衛兵が交代の儀式を行な っている最中で、しばらく見とれてしまっていた。 群集の後ろから背伸びをして見る。 皆、これから始まる何かをジッと待っている。 整列していた小学生達の近くまで行くと、音楽が鳴り行進が始まった。 小学生達の後ろには、女子学生たちの集団が控えている。 どこからこんなにも若い女の子達が、集まってきたのかと思うほど隊 列が続いた。 その後ろに、男子学生が続く。 スーツを着込んだ若者達、民族衣装に身を包んだ若者達、そしてボーイ・ス カウト、軍人・・・・・・いつ終わるのかと心配するほど行進は続いた。 手を大きく振り上げ、足をそろえて行進する様を見ていると、この国 のものではないのだが、不思議な感動が湧き上がってくるのがわかった。 息を殺して見つめる。 至る所から、拍手が沸き起こる。 どうやら・・・・・戦勝記念行事だと、後でわかった。 一時間以上立ち尽くしていただろうか、いやそれ以上・・・・だった かも知れない。 * 行進が終わると、”National Bankof Greece”へ向った。 田舎から送られてきた、東京銀行の小切手を、USドルに両替して貰う為だ。 噂話によると、ギリシャはUSドルを掻き集めるのに苦労しているから、一定 額以上の両替は無理だろう・・・・と言うのを聞いていたので、少々不安な がら向う。 後一ヶ月ここギリシャに滞在するとは言え、300ドルも使いきれない し、・・・また使い切るようでは、すぐ日本に帰ってしまわなくちゃならな くなってしまう。 そんなことは出来ない。 ”N・G・Bank”はシンタグマ広場からモナスティラキ駅に向う途中にある。 銀行に入り、Changeと書かれたカウンターに並んだ。 カウンターにの前には、外国人旅行者たちだろうか、15~6人の人たち が数箇所に別れて列を作っていた。 しばらくして、やっと自分の番が来た。 俺 「この小切手をUSドルにチェンジしてくれ!」 もちろん英語で話しかける。 係りの女性事務員は、しばらく考えてカウンターを離れて、奥で何やら上司 らしき人と密談を交わすと、カウンターへ戻ってきて英語で何やら聞いてき た。 片言英語で話しかけるのは、何とかできるのだが、早口のギリシャ訛 りの英語では・・・・・ヒヤリングが難しい。 俺 「Don't understand?」 彼女「A~~~~~A!」 彼女はなかなか理解してくれない俺を睨み付け、天井を睨んでため息 をつく始末。 後ろに並んでいる毛唐たちも、何か言ってくれているのだけれど、俺がそれ を理解しないものだから、けげんな表情をしながらも、ゆっくりと話し始め てくれた。 彼女「この小切手をUSドルに両替するには、手数料としてDr で支払ってもらうが、それでもOKか?」 俺 「OK!」 彼女「・・・・・」 笑っている。 俺「それで、いくら払えばいいんだ!」 彼女「273Dr(≒2180円)」 俺 「ええええええええ・・・・」 やっと意思が通じ、彼女の口元が緩んだ。 可愛い。 大きな用紙を貰って、「Cash」と書かれたカウンターへ行く。 1ドル札・・・・・5枚 10ドル札・・・・・5枚 20ドル札・・・・・10枚 計・・・・・・・・300ドル USドル紙幣を手に入れた。 現金とともに、二枚の印紙を渡されて、「Change」のカウンターへ戻り、印 紙を渡す。 印紙の代金として、273DRを支払い手続きは完了した。 取引が終わったのだ。 ・・・・・緊張した!!! * 後待つのは、送ったという小包だけとなった。 受け取らず旅立とうと思えば、旅立つことも出来るのだが、一ヶ月待ってみ る事にした。 中には、本類と少々の着替えしか入っていないだろうし、受け取ったからと 言って、そのすべては持って移動できないだろうし・・・。 AirMailだと言うのに遅い! などと思いながら、大金を手にして銀行を後にした。 心強い送金だ。 両親には・・・・感謝!!感謝!! この送金がなくても、三月までの五ヶ月間、やっていける自身はある が・・・しかし、予定になかった通信費や土産物、・・・・日本に帰ってか らのことを考えると、どうしても欲しかったお金ではある。 事実、土産物には参ってしまう。 荷物になるから日本に送るとなると、生活費と比べものにならないほ ど費用がかかってしまうし、送ったからと言って必ず日本に到着すると言う 保証は何もない。 途中で消えてしまうのがほとんどとか。 そうなると、航空便と言うことになるのだが、それがまたバカ高い。 話にならないのだ。 何のためのお金なのか、はっきりしなくなるので始末が悪いのだ。 それに目的の旅はまだ2/3しか終わっていない。 * 午後6時、暗くなった雨が降る街中に、食事を取るために出た。 ここから「タベルナ」までわずかな距離。 石の階段を地下に下りていく。 まだ早いのか、誰も客は居ない。 店の従業員だろう、二人のおじさんが話しこんでいる。 こちらの食事タイムは遅いようだ。 俺に気がついて、こちらを見るので、「Close?」と尋ねると、「OK!OK!」 と手招きする。 仲間達と手料理する以外は、ほとんどここで食事を取っているので、 顔見知りになっている。 顔も覚えてくれているらしく、愛想がいい。 「ムサカ」、「ビーンズ・スープ」と一切れの「パン」が今夜の食事。 日本と違って、客の来る前に何品もの料理を作り置きして、カウンターに並 べるのであるから、日本のように、客の注文に応じて作ってくれることはな いから、ほとんどが冷えている。 そうではあるが、これしかないと思えば・・・・・これがなかなか 美味しいのだ。 最初、抵抗のあったオリーブ・オイルが浮かんだ食事も、美味しく食べるこ とが出来るようになっていた。 人間と言うものは、環境に順応してしまう動物らしい。 俺だけの特技だろうか? * 俺の居る部屋は、4人部屋で、二段ベッドが二つある。 表通りに窓があり、ベランダもついていて、なかなか良いところであるが、 部屋はいつも薄暗い。 同室の男はイギリス人で、小さなテーブルにはいつも、奥さんと子供の写真 が飾られている。 通路をはさんだ隣の女性はカナダ人で、25~6歳と思われる、背の高いすらり としたなかなかの美人なんです。 時々、簡単な会話を交わすんですが、肝心なところになると、 「Don't understand!」・・・・・となってしまうので、非常に残念なの だ。 この時くらい、英語を勉強してこなかったことに後悔したことはなかった。 美人と仲良くなれるチャンスなのに・・・・だ。 毎日、音楽を聴いたり、本「行人」を読んだりして長い夜を過ごす事 になる。 ドミトリーとは、なって良い宿だろう。 宿泊費はめちゃくちゃ安いし、すぐ横にはこんな美人が下着姿で、毛布一枚 で眠っている。 今夜は・・・・どうも、眠れそうにないのだ。 あああ、神様、今日と言う日が永遠でありますように・・・。 ジャンル別一覧
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